この記事の登場人物
- AIは個人の道具にはなりました。組織の仕組みには、まだなっていません。
- 従業員10名以上でデジタル化に着手した企業の管理職に聞くと、86.4%が何らかの業務で生成AIを使っています。なのに「組織的な取り組みはない」が日本は27.0%。米国は1.4%です。日本の中小企業162社だけで見ると45.6%でした。
- 僕もAIで記事を書いて何度も間違え、確認の工程を足してようやく使えるようになりました。その工程を人にどう渡すかは、いまも分かっていません。代わりに、月曜からできることを1つだけ書きます。
最近、思うことがあってね。
どうしました。
AI、この3年ですごく良くなったよね。文章も書けるし、コードも書けるし、資料も読める。でも、うちの仕事のやり方は、そんなに変わってないんだよ。僕ひとりは早くなった。それは間違いない。でも、それが誰かに広がったかというと、広がってない。
数字でも、同じ形が出ています。しかも国ごとに、かなりはっきり差が出ています。
……聞きたいような、聞きたくないような。
日本だけ、桁が違う
総務省の令和8年版 情報通信白書が、従業員10名以上で、すでにデジタル化に着手した企業の管理職以上に聞いたところ、86.4%が何らかの業務で生成AIを使っていました。前の年は55.2%です。米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%と、差も縮まっています。10人未満の事業者と、まだ何も始めていない会社は、最初から入っていません。
別の調査では、もっと低い数字も出ています。中小企業基盤整備機構が中小企業1,668社に聞いた調査では、AIの導入率は20.4%でした。ただしこちらは生成AIに限らないAI全般が対象で、聞いている相手も設問も違います。86.4%から引き算はできません。
そのうえで、いちばん驚いたのがこれでした。生成AIへの組織としての取り組み方を聞いた設問です(同じ白書)。
| 単位:% | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 全社横断で取り組む | 21.5 | 35.6 | 20.7 | 40.9 |
| 各部署で取り組む | 32.4 | 40.6 | 48.1 | 32.0 |
| 個人の生産性向上に取り組む | 11.7 | 22.1 | 26.0 | 23.8 |
| 組織的な取り組みはない | 27.0 | 1.4 | 4.9 | 2.6 |
| わからない | 7.4 | 0.4 | 0.4 | 0.7 |
米国の1.4%に対して、日本は27.0%です。
日本の回答515社の内訳は、大企業353社と中小企業162社です。このうち中小企業162社では、45.6%が「組織的な取り組みはない」と答えています。大企業は18.1%でした。
同じ白書の別の設問では、生成AIの活用方針を「明確に定めていない」と答えた割合が、大企業15.0%に対して中小企業31.5%でした(生成AIの活用方針等)。
……これはちょっと、言葉が出ないな。
白書も「約3割に上り、米国・ドイツ・中国に比べて顕著に高い結果となった」と書いています。
米国が1.4%っていうのが効くね。ほぼ全部の会社が、何かしらやってるってことだ。
日本は「わからない」も7.4%あります。他の3か国は0.4%から0.7%です。
「ない」と「わからない」を足すと3社に1社か。……うちも人のこと言えないな。僕が勝手に使ってるだけだ。
なお、この調査は割合を聞いていて、理由は聞いていません。なぜ日本だけ27.0%なのかは、この数字からは分かりません。
沖縄の数字も見ておきます。県内の情報通信関連企業を対象にしたおきなわITセンサス(2025年7〜8月調査/この設問に答えたのは259社)では、生成AIを「業務で使用中(効果は出ている)」と答えたのが23.9%。使用中とトライアル中を足せば6割を超えますが、効果が出ていると言えているのは4社に1社弱です。
活用方針を「明確に定めていない」と答えた企業も36.7%ありました。報告書はこう書いています。「効果が明確に出ている層はまだ限定的で、多くの企業で効果の検証を進めている段階あるいは具体的な成果の把握に至っていない状況にあると考えられる」。
これは情報通信関連企業だけの調査です。県内でいちばん条件の良い業界が、この数字だということになります。建設や小売はここより下だろうと僕は思っていますが、それを確かめる材料はありません。沖縄の全産業を対象にしたAI導入の調査は、探した範囲では見つかりませんでした。
効率化で止まると、成果にならない
使ってはいる。それでいて、効果のほうは偏っています。先ほどのIPAの調査で、AI導入で何らかの効果を感じている企業に、具体的に何が良くなったかを聞いた結果です。
- 業務が効率化したり迅速化した 91.6%
- 企画提案等の品質や速さが向上した 48.9%
- 残業時間の削減につながった 29.2%
- 顧客満足度が向上した 4.5%
- 対象となる顧客が拡大した 2.7%
- 売上や利益が向上した 3.9%
IPA自身も、こう書いています。「DXの成果の内容は業務効率化などに関する項目で高く、企業価値創出につながる項目では低い状況が続いています。またAIは導入が広がっているものの、その活用はやはり業務効率化・迅速化が中心となっており、企業価値創出への展開は限定的な状況にあることが明らかになりました」。
91.6%と3.9%か。……これ、僕の実感とも合うな。
どのあたりが。
記事を書くのは、たしかに早くなった。でも、それで仕事が増えたかというと、増えてない。早くなったぶん、別のことをやってるだけ。
総務省の調査でも、日本は「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が61.6%で最も高く、「製品・サービスの質の向上」は32.2%でした。米国・ドイツ・中国では、質の向上のほうが1位です。
順番が逆なんだ。
白書はこう書いています。「日本では、生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方で、他の3か国では、もう一歩踏み込み、製品・サービスの質の向上や生産性向上といった文脈で捉えられている可能性がある」。
……効率化は成果だと思ってたけど、そこで止まると成果にならないのか。
では、動いていない会社は何で止まっているのか。中小企業庁の2026年版 中小企業白書が、AIを活用していないと答えた3,888者に、その理由を聞いています(いくつでも選べる設問です)。
- 活用する業務がイメージできていない 63.4%
- 活用を推進する人材が不足している 40.0%
- 社内ルール・ガイドラインが整備されていない 26.2%
- セキュリティ・情報漏えいへの不安がある 14.5%
- 必要な予算を確保できない 13.8%
予算とセキュリティは、下から2つです。止めているのはお金でも危険性でもない、と読めます。
導入したあとの困りごとも出ています。中小機構の調査では、運用の課題が「ランニングコストが高い」44.0%、「運用担当者の負荷が重い」29.1%、「従業員による活用が進まない」28.9%。そして「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」にあてはまらないと答えた企業が83.3%、公的支援として求めるものの2位は「導入事例や活用事例などの情報提供」70.5%でした(1位は導入費用の助成77.9%)。
事例が足りない、という話なんだ。
そう答えている企業が多い、ということです。
でもさ。事例って、たくさん出てると思うんだよ。ネットにも本にもセミナーにも。
出ています。
……ということは、足りないのは事例そのものじゃなくて、「自分の仕事に置き換えられる形の事例」なのかな。
設問はそこまで聞いていないので、資料からは言えません。
言えないのは分かる。でも、事例が出ているのに足りないと答えてるんだから、数の問題じゃないことだけは言えるよね。
それは言えます。
僕のところでは、何が「仕組み」になったか
このブログの記事は、AIを使って書いています。調べ物も、下書きも、チェックも。
そのうえで書きますが、何度も間違えました。
浦添市のPFI事業について書いた記事では、公開前の検証で5件の間違いが見つかりました。ここでは1件だけ書きます。コスト削減率です。30年分をまとめた率を、1年あたりの率として書いていました。読んだ人は、毎年それだけ安くなると受け取ります。実際は30年かけての合計です。
琉球ゴールデンキングスとお金について書いた記事では、千円単位を億円単位に直すときに桁を間違えました。11億23万3千円と書くべきところを、11億233万円と書いていました。
GoogleがAI対策を否定した件について書いた記事では、「Googleは個別のサイトの増減について何も言っていない」と書きました。原文には、トラフィックが減るサイトと増えるサイトがあること、どういうサイトが伸びているかまで書いてありました。読んだうえで、書いていないと書いていたわけです。桁の間違いなら人間もやります。これは違う種類の間違いでした。
……並べると、けっこうひどいね。
どれも公開前に見つかっています。
そこは救いなんだけど。問題は、僕が最初に読んだときには気づかなかったってことなんだよ。
出力が整っていたからだと思います。
そう。文章として自然で、数字も入っていて、出典も付いている。それっぽいんだよ。それっぽいものを、僕が読んで「合ってる」と思った。
見た目の整いと、内容の正しさは別です。
頭では分かってるんだけどね。実際にやると、引っかからないんだ。
足したのは、確認の工程だった
間違いが出るたびに、工程を足しました。
- 書き癖のチェッカー。AIが使いがちな記号や言い回し(「つまり」の多用、太字の使いすぎなど)を、機械で数える
- 事実の扱いのチェッカー。「〜はない」という証明できない否定や、試算を断定で書いていないかを、機械で拾う
- 検証役にやり直させる。書かせたのと別の新しい会話を開いて、「あなたは検証担当です。この記事の数字と引用を、出典の原文と1件ずつ照合してください」と指示する。書いたときのやりとりを見せないのがコツで、見せると自分の書いたものを守りにいきます
- 読み手役に読ませる。「50代の建設会社の社長として読んでください」と役を決めて、どこで読むのをやめたくなるかを言わせる
- 編集長役に決めさせる。検証役と読み手役の意見がぶつかったとき、どちらを採るかを決めさせる。これも別の会話です
上の2つはスクリプトを書いています。下の3つは、AIに役を指定して別の会話を開くだけで、特別な道具は要りません。真似できるとしたら、下の3つです。
全部、AIにやらせています。人がやっているのは、最後に「これでいく」と決めるところだけです。
この工程を足してから、誤りは公開前に見つかるようになりました。効率でいうと、たぶん落ちています。1本書くのに、以前より時間がかかっています。
効率は落ちたんだよね。
工程が増えたので。
でも、これでいいと思ってる。早く出して間違えるより、遅くても間違えないほうがいい。うちみたいな規模だと、一度信用を落としたら戻らないから。
効率化を成果と数えるなら、この工程は失敗です。時間は増えていますから。
……そうか。前に見た、効率化91.6%と売上3.9%の話と同じだ。
何を成果と見るかで、評価が反対になります。
渡せないのは、工程じゃなくて経験だった
ここまでは、僕ひとりのぶんです。
この工程は、僕の頭の中と、いくつかのスクリプトと、そのつど書いている指示でできています。これを他の人に渡す方法が、いまも分かっていません。
チェッカーだけ渡しても、たぶん使われません。実行するのに手間がかかるからです。手順書を作っても、そのうち読まれなくなると思います。「必ずファクトチェックすること」というルールを作れば、形だけ通す確認になっていく気がします。
何より、間違えた経験がない人に、なぜこの工程が要るのかを説明できる自信がありません。僕がこの工程を作れたのは、実際に5件の誤りを出したからです。あの気まずさがなければ、たぶん作っていません。
経験を渡せないんだよ。工程は渡せても。
そこは、ご自身で失敗するまで分からない、ということでしょうか。
それを言うと、全部の教育が成立しなくなるけどね。でも実感としては、それに近い。
中小機構の調査で「従業員による活用が進まない」が28.9%あったのは、そういう話かもしれません。
……渡し方は、分からないままだな。
では、分かっていることは何ですか。
この工程を作れた理由なら分かる。5件間違えたからだ。
それは、渡せますか。
工程は渡せない。間違える機会なら、渡せるかもしれない。
工程は渡せます。チェッカーも手順書も、コピーすれば渡ります。渡らないのは、なぜそれが要るのかという部分です。個人の道具が組織の仕組みにならないのは、たぶんここです。
月曜の朝、ひとつだけできること
渡すべきは工程ではなく、間違いが見つかる場面のほうだと思います。根拠は、僕が出した5件だけです。
社員がひとり、自分の担当業務でAIに何かを1本作る。日報でも、見積の説明文でも、報告書でもいい。出てきたものを、提出する前に、本人が元の紙と突き合わせる。単価表、発注者の仕様書、メーカーのカタログ。AIが書いた数字が、その紙のどこに載っているかを指させるかどうか。それだけです。
間違いが1件出れば、確認の工程がなぜ要るかの説明は、もう要りません。1件も出なければ、その業務はまだAIに渡さなくていい、ということが分かります。どちらでも、判断がひとつ増えます。
僕が渡せる範囲は、いまのところここまでです。
まとめ
- AIは個人の道具にはなった。組織の仕組みにはなっていない。この差が、日本の中小企業ではっきり出ている
- 止めているのは予算でもセキュリティでもない。「活用する業務がイメージできていない」が理由の1位だった
- 効率化で止まると、成果にはならない。何を成果と見るかで、同じ工程の評価が反対になる
- 工程は渡せる。渡せないのは、なぜそれが要るのかという経験のほう
- 渡せるとしたら、間違いが見つかる場面のほう。社員ひとりに1本作らせて、出す前に元の紙と突き合わせさせる。間違いが1件出れば説明は要らなくなる。1件も出なければ、その業務はまだ渡さなくていいと分かる
※本記事は2026年9月1日時点の公開情報にもとづきます。各調査は対象も設問も実施時期も違うため、数字どうしを直接比べることはできません。総務省の調査は日本の回答515社(大企業353・中小企業162)、2026年1〜2月実施。IPAの調査は国内1,799社、2026年4〜6月実施。中小企業基盤整備機構の調査は無作為に選んだ中小企業1,668社(うち16.7%が回答)。おきなわITセンサスは県内の情報通信関連企業が対象で、生成AIの設問への回答は259社です。総務省の86.4%は生成AIだけの数字ですが、IPAと中小機構、中小企業白書の「AI」は、生成AIに限らないAI全般(画像認識、音声認識、自然言語処理、データ分析、意思決定支援、生成AIなど)が対象です。
国際比較の表は、行の見出しを短くしています。選択肢の正式な文言は上から順に「全社横断的に事業変革やイノベーションに取り組んでいる」「各部署における業務の最適化や価値向上を行っている(全社横断には至っていない)」「リサーチや資料作成など個人の生産性向上に組織的に取り組んでいる(業務自体の変革には至っていない)」「組織的な取り組みはない」「わからない」です。
筆者の失敗の事例は、いずれも公開前の検証で見つかったもので、公開後に訂正したものではありません。



