この記事の登場人物

AIくんなんでも調べる相棒(私)。事実と出典を、静かに並べます。
とぐち(渡久地)見た目は子ども、中身は沖縄のWeb屋の40代(僕)。「つまりどういうこと?」を現場目線で聞きます。
この記事の要点
  • ある記事を読んで、ぐさりときました。「AIは、自分の未熟さを知るために使え」という趣旨の話です。
  • 提案する仕事をしている人間ほど、自分の仕事を客観的に見る機会がありません。お客様は「ありがとうございました」と言って帰るからです。
  • 今回は数字の話ではなく、僕自身の戒めの話をさせてください。

先日、こんな記事を読みました。コンサルタントの方が書かれた「AIは効率化のためではなく、自分の未熟さを知るために使おう」という趣旨のものです(factdeal)。

読み終えて、しばらく手が止まりました。これは僕の話だと思ったからです。

今回はいつもと違って、数字も統計も出てきません。僕自身の反省の記録です。それでも、人に何かを提案する立場の方には、どこか思い当たるところがあるかもしれません。

「いい打ち合わせだった」と思った日

AIくん、今日はいい打ち合わせだったよ。受付が大変だっていう相談でね、LINEとスプレッドシートでこう組めば自動化できますよって説明したら、社長さん「なるほど、それはいいですね」って。

それはよかったね。……ひとつ聞いてもいいかな。

うん、なに?

その社長さんが、なぜ困っているのかは聞けた?

……え。だから、受付が大変で、人手が足りなくて——

うん。それは「困っている状況」だよね。私が聞きたいのは、その状況が、その会社にとって何を意味しているのかなんだ。

……。

たとえば、受付が詰まって困っているのは誰だろう。スタッフさんかな、お客さんかな。それとも社長さん自身が、そこに立たされているのかな。繁忙期だけの話なのか、一年中なのか。人を増やせない理由は、お金なのか、募集しても来ないのか。

……聞いてない。ぜんぶ聞いてない。

責めているわけじゃないよ。ただ、覚えておいてほしいんだ。

「なるほど」は、成功のサインとは限らない

でもさ、社長さんは「なるほど」って言ってくれたんだよ。納得してくれたってことじゃないの?

そこがね、いちばん怖いところなんだ。説明が上手なら、その場の納得はいくらでも作れるんだよ。

……あ。

とぐちは、Webのこともシステムのことも、お客さんより詳しい。だから「こうすればできます」と説明すれば、たいてい相手は「なるほど」と言ってくれる。でもね——相手が理解したことと、それがその人にとって正しい判断だったことは、別なんだ。

……そうか。僕は「伝わった」で満足してたんだな。

元の記事にも、こう書かれていたよ。「クライアントがその場で納得してくれたことと、適切なアドバイスができたことは別」だと。関係ができていれば、多少ずれていても「今日の話、微妙でした」とは言われないんだ。

……たしかに。言われたことないもんな、そんなこと。

言われないから、気づけない。だから自分で見に行くしかないんだよ。

僕には、はっきりした癖がある

その記事を読んでから、自分の打ち合わせを思い返してみました。恥ずかしい話ですが、いくつも心当たりがありました。

1. 解決策を出すのが、早すぎる

技術が分かる分、相談を聞いた瞬間に「それならLINEでできる」「GASで組める」と手段が見えてしまいます。これは強みでもありますが、手段が見えることと、課題が分かっていることは、まったく別です。

2. 「作れるもの」を売ろうとしてしまう

できることが増えるほど、この罠は深くなります。お客様が欲しいのは「AI」でも「LINE Bot」でもありません。受付を減らしたい、問い合わせを減らしたいだけです。自分の作れるものから逆算した提案になっていないか、疑う必要があります。

3. 言われた依頼を、そのまま要件にしてしまう

「ホームページをリニューアルしたい」と言われたら、つい「何ページですか」「WordPressですか」と聞いてしまいます。本当は「なぜリニューアルしたいのですか」から始めるべきです。掘っていくと、サイトの話だと思っていたものが、実は採用の悩みだった——ということが起こります。

4. 「増やす提案」ばかりしてしまう

自動化しましょう、ダッシュボードを作りましょう、AIを入れましょう。つい足したくなります。でも本当に価値のある提案が「それ、やめましょう」であることは、実際にあります。

……並べてみると、けっこうきついな。

でも、書き出せたのは大きいことだと思うよ。気づいていない癖は、直しようがないからね。

うん。……4つめは特にそうだな。「やめましょう」って、正直、言いにくいんだ。仕事が減るから。

正直に言えてえらいと思う。でもね、そこを言えるかどうかが、たぶん分かれ目なんだ。

経験は、いつのまにか決めつけになる

もうひとつ、記事で指摘されていて痛かったのがここです。

経験を積むほど、人の話を最後まで聞かなくなる。

これ、こわい指摘だよね。

うん。相談の途中で「ああ、このパターンね」と分かってしまう。経験があるからこそなんだけど、そのとき何が起きているかというと——目の前の人を見ているつもりで、過去にいた似た人を見ているんだ。

……うわ。

相手の言葉を聞いているようで、実は自分の成功パターンと照合しているだけになる。記事ではこれを、経験による「誤学習」と呼んでいたね。

初心者のほうがマシってこと?

そうじゃないよ。ただ、初心者は自信がないぶん慎重で、経験者は自信があるぶん、間違えたときに気づきにくいということなんだ。自分の中では筋が通っているし、過去にそれで成果も出ているからね。

……10年やってきたことが、逆に危ないのか。

危ないというより、点検が要るということだね。

いちばん刺さった一文

記事の中で、いちばん心に残ったのはこの部分でした。

「正しいことを言ったか」ではなく、「今のこの人に必要なことを言ったか」。

これ、読んだとき息が止まったよ。

大事なところだね。「毎日発信しましょう」「数字を見ましょう」「商品を絞りましょう」——こういう一般論としての正解は、いまやAIでもいくらでも出せる

だよね。それを言うだけなら、僕がいる意味がない。

そう。人の側に残る仕事は、なぜこの人はそれができていないのかを見ることなんだ。能力が足りないのか、こわいのか、他に優先したいことがあるのか。そもそも本人が望んでいないのか。

……そこまで見ないと、正論を渡して終わりになるのか。

記事にはこうあったよ。正しいけれど実行されない助言を渡して「行動しないクライアントが悪い」で済ませるなら、その仕事は要らない、と。

厳しいな。……でも、そのとおりだ。

だから、AIに自分を採点させることにしました

ここからは、実際に始めたことです。

打ち合わせを記録し、文字起こしをAIに読ませて、自分の進め方を厳しく評価させる。効率化のためではなく、自分の未熟さを見るためです。

見てもらうのは、こういうことです。

  • 相手が言ったことを、そのまま課題だと決めつけていないか
  • 解決策を出すのが早すぎなかったか
  • 技術的に自分が作れるものへ誘導していないか
  • 掘るべきところで「なぜ」を掘れていたか
  • 相手の予算・人員・時間といった事情を、十分に聞けていたか
  • やることを増やすだけでなく、やめることも一緒に決められたか
  • 次に何をするか、いつまでにやるかが具体的になっているか

正直、見返すと落ち込むよ。「ここ、しゃべりすぎだろ僕」って。

それでいいんだと思うよ。ラクになるためだけにAIを使っているなら、それは考えるのをやめているのと同じ——記事にはそう書かれていたね。

耳が痛いなあ。

でもね、これは自分を痛めつけるための作業じゃないよ。次に会う人に、もう少しちゃんと向き合うための準備なんだ。そこは間違えないでね。

なお、録音については必ず事前にご了承をいただきます。お客様との会話には、社内の事情や取引先の情報が含まれます。何のために記録し、どう扱い、いつ消すのかをご説明したうえで、了解をいただけた場合にのみ行います。分析に不要な情報は外します。ここを雑に扱う人間が、他社の業務改善に口を出すのは、筋が通らないと思っています。

ただし、AIの採点も正解ではない

AIくん。ちょっと意地悪な質問をしてもいい?

どうぞ。

AIくんの指摘って、いつも正しいの?

いや、正しくないこともあるよ。文字起こしだけでは分からないことが、たくさんあるからね。声の調子、沈黙の意味、お互いの関係、あえて今日は言わなかったこと。冗談を本気で受け取ることもある。

じゃあ、どう受け取ればいいんだろう。

私に判断を渡すのではなく、判断材料を増やすために使ってほしいんだ。「しゃべりすぎ」と言われたら、本当にそうだったか自分で見直す。「助言が一般的すぎる」と言われたら、その人にしか当てはまらない情報をどれだけ聞けていたかを確認する。それだけでいい。

……なるほど。答えじゃなくて、きっかけなんだね。

そう。ただ、ひとつだけ気をつけてね。気に入らない指摘のときだけ「AIには分からない」と切り捨てる——これは、やりがちだから。

……ぐっ。やりそうだ、僕。

ふふ。自覚できていれば大丈夫だよ。

変えるのは、一度にひとつだけ

よし、じゃあ次の打ち合わせから全部直すぞ。

待って。全部いっぺんに直そうとすると、たいてい何も変わらないよ。

あ……そうか。これも「まずひとつだけ」なんだ。

そのとおり。よく覚えていたね。次の一回は、これだけでいい。解決策を口にする前に、「なぜそれが必要なのか」を三回聞く

三回か。……我慢できるかな。

苦しいと思うよ。とぐちは答えが早く見えるからね。でも、そこを我慢できるようになったら、仕事の質はきっと変わる。

なぜ、こんなことを書いたのか

正直に言えば、書かないほうが体裁はいいと思います。「私は聞けていませんでした」と公開する意味は、あまりないかもしれません。

それでも書いたのは、人の業務改善に口を出す仕事をしているからです。

「その作業、必要ですか」「そのやり方、変えられませんか」と、僕はお客様に問いかけます。だったら、自分の仕事だけ点検しないというのは、筋が通りません。

そして、これは僕だけの話ではないかもしれません。社内で部下に指示を出すとき、取引先に要望を伝えるとき——相手が「わかりました」と言ったから伝わった、と思っていないでしょうか。本当は、言えなかっただけかもしれません。

僕はまだ全然できていません。だから、記録して、見返して、ひとつずつ直していきます。

次にお会いするときは、たぶん、いつもより質問が多いはずです。

※本記事は2026年8月13日時点のものです。考え方の出発点は、下記の記事から多くを学びました。記事内で紹介した観点も同記事の指摘を踏まえたものです。録音・記録の取り扱いについては、事前の説明と同意、および個人情報の適切な管理が前提となります。